格ツク最強理論


「『if』にすべてを」
紹介ゲーム:EMBLEM OF RED
 少し話が遠回りになりますが、物語(一応格闘ゲーム関係の読み物なので、今回「物語」は戦いを含むものととらえていただけるとありがたいです)の仕組みから考えていきましょう。物語には主人公がいて、多くはその周りを固める仲間たちの存在、またほとんどの場合において敵役というものが存在します。そしてストーリーが進み、戦いが激しくなるにつれ、惜しまれつつも命を落としてしまうキャラクターがいる物語も珍しくありません。仲間が散っていく、また敵役であっても影の濃かった敵役の最期は、かなりの衝撃を感じるものではないでしょうか。そんなときにこんなことを思うのは私だけではないと思うのです。「もっとこのキャラにスポットを当ててあげたい」と。

アーケードで稼動し、家庭用ゲーム機にも移植された「ジョジョの奇妙な冒険」というゲームをご存知でしょうか。これは人気漫画を格闘ゲーム化したもので、高い評価を得た作品ですが、今回注目したいのはこのゲームで「使用キャラ次第で原作のストーリーをひっくり返すことが出来る」という点です。原作では途中で散ってしまったキャラを選択して最後まで勝ち抜くことによって、そのキャラを生かすことが出来たり、原作では単なる1敵キャラに過ぎなかったキャラを選択して勝ち抜くことによって、なんとそのキャラが支配してしまう結末を迎えることが出来たり、原作ではありえなかった「if」の世界がそこにはあります。

今回紹介する「EMBLEM OF RED」。これは同名の小説を原作として格闘ゲーム化したものです。原作に登場したキャラクターが次々と登場するわけですが、この小説でも前述のように、ストーリー途中で散ってしまうキャラクターがいます(誰がどこでどう、というのは原作の雰囲気を損なわないためにここでは触れないでおきます)。しかしながらそのキャラを選んで最後まで戦わせることで、最後まで生き残らせることができる「if」のストーリーを楽しむことが出来ます。また、ストーリー途中で出てきた敵役キャラも使用でき、小説ではそこまで存在感の濃くなかったキャラを主役級に立ち回らせることも出来るのです。「選んだキャラが主人公」である格闘ゲームでは「もっとこのキャラにスポットを当ててあげたい」と思っていたキャラを使うことにより、本当にスポットを当てることが出来るというわけなのです。もしも本作がRPGとして作られていたらこのような「if」を作るのはもっともっと難しかったんじゃないかなと思います。基本的に主人公が決められている(たまにそうでないRPGもありますが)RPGというジャンルでそんなことをしたらゲームが成り立たなくなる恐れもあるからです 。しかしながら「選んだキャラが主人公」が定石の格闘ゲームでならば、同一ゲーム内でいとも簡単に主役と脇役、果ては主役と敵役の立場が逆転できるのです。これは小説や物語を格闘ゲーム化する際の大きなメリットだと考えています。

「EMBLEM OF RED」の格闘ゲームとしての面白さにも触れておきたいと思います。ストーリー重視のゲームと思いきや、格闘ゲームとしても非常に熱い戦いが楽しめる「EMBLEM OF RED」。その大きな要素の一つが「リフレクション」の存在です。「リフレクション」はいわゆるガードキャンセルの一種で、即座にガード硬直を解いて反撃を可能にするというものですが、ほとんどの技にキャンセルがかかる本作においては、コンボの途中の技にリフレクションをしても、相手がキャンセルして出した次の技にヒットさせられてしまう状況が多く、リフレクションをただ出せばいいというわけではありません。コンボを出し切ったあとにリフレクションを出せば反撃確定、それを防ぐためにはガードされた場合、コンボを途中で止める「途中止め」が有効なのですが、そうすると今度はヒットしていたときまでコンボを間違えて止めてしまい、ダメージが安くなってしまうというデメリットも併せ持ちます。このコンボはヒットするのかガードされるのか、また途中止めするのか出し切ってくるのか、技を出し合う中での読み合いはとても楽しいものです。コンボが注目されがちなゲームですが、それだけではない奥深さが本作にはあります。

CPUが前述のコンボやリフレクションを結構使ってくるため、CPU戦の難易度は高く、ストーリーを進めるのは初心者には正直厳しいかもしれません。それでも、日の当たらないキャラクター、原作で散ってしまったキャラクターの「if」にすべてをかける気持ちでこの難易度に挑んでみるのも、また面白いのではないかと思うのです。
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